大パノラマの星空が広がる

 

「大パノラマの星空が楽しめる!!千葉県勝浦市 八幡岬公園」

夏の暑さが年々激しさを増す中、都心からほど近いクールスポットとして勝浦市は注目を集めています。潮と風の流れの妙に恵まれた避暑地は、人気の移住先のひとつですが、400年以上の歴史を持ち三大朝市のひとつにも数えられる朝市や、海水浴場、ビッグひな祭りなどは、観光客からも支持されています。そんな中、まだ知られざる勝浦市の夜の魅力をご紹介しましょう。都会の喧騒を忘れ、海の音を聞きながら、まるで今にも降ってきそうな星空を楽しむことができるのです。

星空観察は空の暗いところで

満天の星を見たとき、目に映る星の数に感動して「プラネタリウムみたい」と言われることがあります。しかし、プラネタリウムはもともと、天然の星空を再現したものなので、夜空に見える星の並びがもとになっています。では、なぜ夜空にはプラネタリウムほどたくさんの星が見られないのでしょう。それは、人工の街明かりがあるからです。

地球の大気や、大気中の微粒子は、光を散乱する性質があります。夜空に向かった街明かりも、散乱されます。だから、街のそばでは夜空が明るくなります。すると、夜空の明るさよりも淡くまたたく星の光は、夜空に散乱した街明かりに埋もれて見えなくなってしまいます。この現象は光害のひとつにあげられ、近代的な社会活動の代償とも言えます。一方、市街地から離れれば、夜空に街明かりの散乱が少なくなるので、淡い星々まで見られるようになります。ですから、満天の星を求める際には、暗い夜空が見られる場所へ向かいましょう。

勝浦市は天体観察の適地

勝浦市は房総半島南東部の外房に位置しています。首都圏の強い街明かりを、房総半島がさえぎる効果もあり、外房エリアは首都圏の中では夜空が暗いのが特徴です。夜空の暗さは、例えば「Light Pollution Map」や「Dark Site Finder」などでも調べることができます。

外房エリアの中でも、南東側に海が開けている勝浦市は、ご来光はもちろん、月の出を観察するのにも適しています。加えて、11月~1月頃は晴天率が概ね60%以上で、天体観望の好機です。

天体観測のおすすめスポット「八幡岬公園」

市街地から離れようと思うと、自動車を使用される方が多いのではないでしょうか。ゆっくり観察するには、夜間も使える駐車場やトイレの存在は欠かせません。加えて、駐車場を出入りする車のヘッドライトなどで観望が妨げられない地形が望まれます。

これらの条件を満たす観察場所のひとつが、八幡岬公園です。東西南の三方を海に迫る断崖に囲まれた高台なので、東からのぼって南の空を通り西の地平線に沈む星々の動きを一望できる、絶好の天体観察スポットと言えます。古くから天然の要塞として使われており、勝浦城の跡地でもあります。岬の突端の展望広場には、勝浦城主の娘で、徳川家康の側室となったお万の方(水戸光圀の祖母)の銅像が設置されています。今でも勝浦の人々に愛されている様子が伝わってきます。

「お万の方と冬のダイヤモンドと木星」

視野を広くとって流れ星を探してみては?!

八幡岬公園は、海へ突き出した地形なので、空が開けて見えるのが特徴です。空の広い範囲を一度に観察できるのは、流れ星を探す時に大きな利点です。流れ星は地球に衝突した小さな石が光を放つもので、日々散発的に見られるものは散在流星と呼ばれています。一方、彗星(ほうき星)が落とし物を大量に残した通り道に地球が通りがかると、流星群が見られます。主なる流星群は 国立天文台のWebサイト でも紹介されています。中でも8月13日頃に見頃を迎えるペルセウス座流星群、12月14日頃に見頃を迎えるふたご座流星群、1月4日頃に見頃を迎えるしぶんぎ座流星群は三大流星群と呼ばれ、月の明かりがなければ、毎年それなりに安定して多くの流れ星を見ることができます。

天体観望の際には赤やオレンジの懐中電灯がオススメ

街明かりが届かず、公園内が暗いのが天体観望のオススメの理由ですので、安全のため、足元を照らす懐中電灯やヘッドライトがあると良いでしょう。ただ、人間の目は、暗い場所に慣れるのに時間がかかります。一方、明るい光を見ると、せっかく暗さに慣れていても、すぐに明るさに慣れてしまって、また暗さに慣れるまで時間がかかってしまいます。そこで、あかりをお持ちになる際には、白い光ではなく、オレンジのLEDを使うか、照明の前に赤いフィルムを貼って使うと、目が暗さに慣れて星空がきれいに見えるのを邪魔しづらいと言われています。駐車場を下りて急に公園内を移動せず、しばらく暗さに目を慣らすのも効果的です。

「展望広場から見た冬のダイヤモンドと天の川と木星」

星景写真(せいけいしゃしん)撮影のヒント

目を見張る星空に遭遇し、写真を撮影したいと考える方も多いのではないでしょうか。夜空の撮影には様々なテクニックがありますが、ここでは星景写真をご紹介しましょう。

星景写真とは、星空と地上の景色を一緒に視野に収めた写真です。星空だけであれば、どこからでも撮影できますが、地上の景色とともに写すことで、旅の思い出の一枚を記録できます。まずは、構図を決めましょう。

一般的には、地上の明るい方角を避け、夜空の暗い方角を向きます。八幡岬公園から見ると、北側~西側は東京湾の明るさが目立つため、南~東向きに撮影するのが定番です。お万の方の銅像や休憩所など、象徴的なものが写っていると、あとから記憶がよみがえりやすいのでオススメです。星空は、漠然と撮影するのではなく、明るく星をつないだ星空の目印やお気に入りの星座が視野に収まるようにすると、思い入れのある作品に仕上がるのではないでしょうか。

 

カメラのズーム機能も、画角を決める際には役に立ちます。望遠にすれば視野が狭くなり、広角にすれば視野が広がりますが、写真の縁の方は引き延ばされて写るため、目で見た時の印象とは変わります。次の写真は、ひとつ前の広角写真を望遠気味にして撮影したものです。広角の写真では冬のダイヤモンドがすべて写っていましたが、こちらは冬の大三角が視野を埋めています。

「展望広場から見た冬の大三角」

観察に訪れるタイミングを模索しよう

一般論として、夜空に月が輝いていると、月明かりがまぶしく他の星が見づらくなるため、天体観測や星景写真撮影の際には避けることが多いです。月が見える高度・方位や時間帯は、国立天文台の 今日のほしぞら や こよみの計算 を用いて調べることができます。あまり絞り込みすぎるとチャンスが少なくなってしまうので、まずは左半分の明るい下弦の月から三日月くらいまでの間でタイミングを見計らうのが良さそうです。

夜の写真撮影という意味では、敢えて月を入れて撮影することで、他にはない1枚を撮影することも可能ですので、訪れた日に月が明るかったからと言って、落ち込む必要はありません。例えば子供の広場から西の海を見ると、旧 遠見岬神社の海の鳥居が見えるので、三日月前後の夕方に八幡岬公園を訪れて、西の空の細い月と鳥居を収めた「潮の満ち引きと月」のような写真や動画の撮影に挑戦してみても良いかもしれませんね。また、展望広場から北を向くと勝浦灯台が見えるので、北極星と共に視野に収めて「船が見つめる夜の道しるべ」みたいなコンセプトの写真を撮影するのも面白そうです。この写真は、シャッターを開けっぱなしにする間に星が動く軌跡を撮影できると、北極星を中心に星が日周運動している様子が見られて、より表現の豊かな写真にできそうです。八幡岬には地層が露出している個所が多いので、星空と一緒に写し込んで「悠久の時間」を表現した作品を制作したり、地層と海と月を一緒に写して「地球にしかない奇跡の海が作った地層」を表現したりしても良いかもしれません。同じ場所でも、月の位置は毎日ダイナミックに変化しますし、惑星の位置も少しずつ変化するので、何度も訪れてお気に入りの一枚を撮影する楽しみを見つけてみてください!!

「おおぐま座(北斗七星)としし座を望む」

星景写真は一期一会

夜空を眺めていると、飛行機や人工衛星が夜空を通ることがあります。例えば国際宇宙ステーションが通過する軌道は、 JAXAのWebページ でも調べることができます。撮影した写真に軌跡が写り込んでしまうと「失敗」と受け止める方もいらっしゃいますし、天文学の研究をする上では避けたいことではありますが、旅の思い出に星景写真を撮影する場合には、私はある種の「成功」だと考えています。飛行機の航路や人工衛星の軌道は、撮影日時によって変わります。さらに、少し場所を変えれば、同じ航路を通った飛行機も違った位置にうつります。つまり、その写真が撮影できるのは、その時、その場所に確かにいた人だけなのです。加えて、月や惑星も星座の中を移動し続けているため、別の日時に全く同じ写真は撮れません。太陽系の天体の運動のみならず、人工物までもが星景写真を唯一無二のものにしてくれた貴重な出会いも記録に残しながら、星空の思い出を持ち帰っていただければ幸いです。

credit:アストロコネクト/荒井大作

記事執筆 羽村 太雅


手作り科学館exedra 館長/一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会 会長/江戸川大学・気象大学校 非常勤講師。東京大学大学院で地球惑星科学を専攻した後、国立天文台にて広報普及員としてマスメディアでの天文学の情報発信などを担当。2017年以降、勝浦市にて科学講座などを多数実施。夏には小中学生とともに勝浦市を訪れ、自然体験活動を通じて理科に親しむ「理科の修学旅行」も開催。千葉県知事賞など受賞歴多数。旅行業務取扱管理者(国内)。

共同執筆 松元 理沙


星空案内人/科学コミュニケーター

天体望遠鏡メーカービクセンで全国にて星空イベントを企画開催。2023年4月に移動科学館Science a GoGo 立ち上げ。現在はイベント企画運営、講師等。国立天文台すばる望遠鏡 広報普及員/YouTube番組「オンラインプラネタリウム」解説員/北海道大学CoSTEP15期修了/いすみ星空学校3期

写真撮影 荒井 大作


高校生から天文の世界に入り、高校、大学では自作プラネタリウム制作、天体写真撮影などを行う。株式会社ニコンにてデジタルカメラの光学設計主任を経て、2019年より、宇宙と人を繋いで、感動を届けるアストロコネクトを起業。「宇宙×エンターテインメント」「宇宙×教育」事業に関する企画・提供を行い、年間のべ3,000人以上の子どもたちに宇宙の講座を届けている。株式会社 アストロコネクト 代表取締役/オンラインプラネタリウム代表/一般社団法人

宙ツーリズム推進協議会 事務局長/フォトマスター1級/星空案内人(星のソムリエⓇ)

八幡岬公園のご案内

住所:千葉県勝浦市浜勝浦221


駐車場:無料


トイレ:公園内に公衆トイレあり


その他:閉鎖時間なし


注意事項:公園内にはあかりがないため、日が落ちると真っ暗です。懐中電灯などご用意の上、足元には十分ご注意ください。



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